日本は、関連する様々な法制度の整備を行った上で、2014(平成26)年、以下の内容を含む「障害者の権利に関する条約」を批准しています。
1 締約国は、全ての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保障する。
3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。
4 障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない。
これにより、日本は、障害者を含む全ての者が平等であることを認め、障害に基づくあらゆる差別を禁止することを国際社会に約束しました。
かかる条約の理念を国内労働法分野に落とし込んだ法律の一つが、「障害者の雇用の促進等に関する法律」で、この法律には、前回お話しした事業主に障害者の雇用義務を定める「法定雇用率制度」の他、障害者差別の禁止や合理的配慮の提供の義務なども定められています。
障害者差別の禁止に関しては、厚生労働省が「障害者差別禁止指針」を定め公表しており、全ての事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならず、また、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならないとしています。
この指針の中では、①募集及び採用、②賃金、③配置、④昇進、⑤降格、⑥教育訓練、⑦福利厚生、⑧職種の変更、⑨雇用形態の変更、⑩退職の勧奨、⑪定年、⑫解雇、⑬労働契約の更新という各場面で禁止される具体例が紹介されています。
一方、障害者と障害者でない者とで異なる取り扱いがある場合でも、以下のように、それを正当化する合理的な理由があれば禁止される差別には該当しないとされています。
イ 積極的差別是正措置として、障害者でない者と比較して障害者を有利に取り扱うこと。
ロ 合理的配慮を提供し、労働能力等を適正に評価した結果として障害者でない者と異なる 取扱いをすること。
ハ 合理的配慮に係る措置を講ずること(その結果として、障害者でない者と異なる取扱いとなること)。
ニ 障害者専用の求人の採用選考又は採用後において、仕事をする上での能力及び適性の判断、合理的配慮の提供のためなど、雇用管理上必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認すること
ここに「合理的配慮」という言葉が何度もでてきます。非常に大事な言葉なので、是非覚えておいてください。
少し話が変わりますが、みなさんは、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)とは、Diversity(多様性)・ Equity(公平性)・Inclusion(包括性)の3つをあわせた言葉で、個々の多様性を尊重し公平な機会を提供することで、誰もが活躍できる環境を目指す考え方のことをいいます。
このうち、Equity(公平性)は、全ての人々に対して平等な機会を提供するため、それぞれの個別のニーズや背景に応じて支援や資源を提供したりすることを指しています。例えば、障害を持つ従業員に適切な職場環境を提供したり、経済的に恵まれない従業員に追加の教育やトレーニングを提供することなどがこの公平性に基づくアプローチとされています。出発点から不公平が存在している状況では、仮に、同じ機会を平等に提供しても、公平な競争が確保されず、社会構造的な不平等は解決されないままです。そのため、公平性の概念が重視されるようになっています。
先に出てきた「合理的配慮」は、この公平性担保のため、障害者の実質的平等を確保するために行なう、手助け、施設の改良、補助手段の提供、ルールの変更などのことをいいます。
具体的には、
・車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境への配慮
・筆談、読み上げ、手話などによるコミュニケーション、分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮
・障害の特性に応じた休憩時間の調整などのルール・慣行の柔軟な変更
などの配慮が挙げられます。
この障害者に対する合理的配慮の提供は、令和6年4月1日から、事業者に対し義務化されています。障害者差別禁止同様、厚生労働省の指針があるので、細かいことはこの指針を確認していただければと思います。
(指針はこちら→合理的配慮指針)
障害の状況や職場の事情はそれぞれ異なることから,差別防止に向けた取り組みや合理的配慮の内容は,労使間の建設的な対話を通して自主的に決定されることが望ましいです。自主的な解決が難しい場合は、当事者の双方又は一方から都道府県労働局長に対し、解決に向けた援助を求めることができ、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者に対し,必要な助言,指導又は勧告をすることができることになっています。
障害者の雇用の促進等に関する法律36条の2
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
障害者の雇用の促進等に関する法律36条の23
事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。