企業によっては、懲戒処分の一つとして諭旨解雇(諭旨退職)を設けています。
諭旨と書いて「ゆし」と読みます。
たまに誤変換(?)で論旨解雇(ろんしかいこ)と書かれている場合もありますが、正しくは「諭旨解雇(ゆしかいこ」です。意味から考えたら間違えにくいかもしれません。
「諭旨」とは、趣旨や理由をさとし告げることをいい、「さとす」とは、目下の者に物事の道理をよくわかるように話し聞かせる。納得するように教え導くというような意味です。
諭旨という言葉を退職手続きの中で用いるときは、会社が従業員に対し、従業員が解雇(退職)に相当する非違行為を行ったこと、解雇(退職)がやむを得ないこと、懲戒解雇まではしたくないので退職願い・辞表を自ら提出するよう、理由も含め従業員が納得するよう説明する(説得する)というような意味合いで使われます。
従業員が納得するように話し聞かせる、その結果、従業員は会社からの説明に納得した上で、退職願い、辞表を自ら提出するという流れからすると、解雇ではなく退職の一つではないかという捉え方から、「諭旨解雇」ではなく、「諭旨退職」と呼ばれることもあります。
退職するよう説得されるという意味では、退職勧奨となにが違うんだという疑問が湧くかもしれません。
退職勧奨とは、会社が従業員に退職を促す行為のことですが、この場合、従業員が会社からの勧奨に応じなかったとしても解雇となるわけではなく、退職するか否かはあくまでも従業員の自由です。それに対し、諭旨解雇の場合、会社が退職を勧告し、従業員がそれに応じないときには懲戒解雇処分されることになります。つまり、退職するか否かについて従業員に選択の余地はなく、選択できるのは、懲戒解雇か諭旨解雇(諭旨退職)かにすぎません。これは、本人の意思によって退職届を提出する通常の退職とは異なり、あくまでも懲戒処分の一種です。
ちなみに、通常、就業規則には、「諭旨解雇」か「諭旨退職」のどちらかの処分しか書かれていないことが多く、会社が、解雇処分と捉えているか、退職処分と捉えているかの違いだけで、あまり深く考えて用語が選択されているわけではないように思います。
実際問題、参考にした就業規則にその用語が使われていたから、そのまま使っているだけというケースも多いでしょう。
仮に、懲戒処分として「諭旨解雇」とする場合、会社としては解雇処分の一つと考えていることから、労働法上の解雇に関する諸々の規定の適用を受ける可能性はあります。
ただし、「退職」か「解雇」かは、就業規則においてどちらの語句が用いられているのかといった要素のみで単純に判断されるものではなく、あくまでも実態を総合的に見て判断されます。仮に、就業規則上、「諭旨退職」という語句が用いられていたとしても、本人の意に反して無理やり退職させるような行為は解雇に当たると評価されるので、就業規則に「諭旨退職」と記載しておけば得をするような問題ではありません。