多くの企業では、正規従業員の採用については、入社後一定期間を「試用」ないし「見習」期間とし、この間に当該労働者の人物・能力を評価して本採用(正社員)とするか否かを決定する制度を採用しています。通常、1ヶ月~6ヶ月の間がほとんどで、3ヶ月とする企業が最も多いですが、法律上は、特に期間制限はありません。期間制限はないとはいうものの、あまりに長い期間の試用期間を設けることは、公序良俗違反で無効と判断される可能性はありますし、労働者の適性を見極める期間という試用期間の趣旨からして、会社はそれほどの長期間、適性を見極めるのに必要なのか(見極める能力が低すぎるのではないか)と後ろ指をさされる可能性もあるので、避けた方が無難です。
試用期間中は正式な労働契約はまだ締結されておらず、労働者の権利を守る労働法令の適用からは除外されているのではないか、会社の都合でいつでも辞めさせることができるのではないかと誤解されることもありますが、そんなことはありません。
試用期間中であっても、会社と労働者の間には、正式な労働契約が締結されています。
労働契約関係にある以上、原則、労働基準法も労働契約法も適用され、試用期間中の者や試用期間を終了した者を解雇する場合は、解雇濫用規制である労働契約法16条も適用されます。
(解雇)
労働契約法第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
しかし、解雇予告(予告手当の支払い)については、労働基準法21条4号において、「試の使用期間中の者」は、前条の規定(解雇予告の規定)は適用しない(即時解雇も可能)とされています。ただし、試用期間中の者であっても14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は、原則通り、30日前の解雇予告(予告手当の支払い)をする必要があります。
労働基準法
(解雇の予告)
第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
第21条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
また、試用期間中の者については、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限りますが、最低賃金を下回る賃金で労働契約を締結することも可能です。
(最低賃金の減額の特例)
第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者
最低賃金法施行規則第5条によると、「試の試用期間中の者」に適用される減額率は、20/100以下の率とされています。
ただ、現実問題として、試用期間を設ける予定の求職者との間で、わざわざ都道府県労働局長の許可を受けた上で、最低賃金を下回る賃金であえて契約するようなことはほとんどないのではないかと思います。