前回は、期間の定めのない契約における辞職について説明しましたが、今回は、期間の定めのある場合についてのお話です。
まずは適用される法律(民法)です。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
名宛人が当事者と書かれているので、この条文についても、使用者、労働者、どちらにも適用されます。
期間の定めのない労働契約の場合とは異なり、従業員は、やむを得ない事由があるときに限り、契約期間の途中でも契約の解除をすることができるとされています。
この条文は労働基準法で一部修正されていて、労働者は、1年を超える契約期間を定めた場合でも、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものおよび一定の高度の専門的知識等を有する者および60歳以上の労働者を除き、契約期間の初日から1年を経過した日以後はいつでも退職できるとされています。
労働基準法第137条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
では、上記労働基準法137条の適用を受ける労働者が、契約期間の初日から1年を経過するまでに、やむを得ない事由がないにもかかわらず辞職した場合は、どうなるのでしょうか。
この場合も、期間の定めのない場合の即日退職同様、会社が同意すれば何の問題もありません。
問題は同意してくれない場合です。
同意のないまま、そのまま辞めてしまった場合、契約初日から1年を経過するまでの残りの期間、従業員は無断欠勤を続けたということになり、その場合、従業員は労務の提供という債務を履行しなかったとして、会社から損害賠償請求される可能性もあります。
ただし、病気で仕事を続けられない、上司からパワハラを受けていたのに会社が何も対応してくれない等、従業員が途中で退職するやむを得ない事由がある場合(過失によって生じたものでない場合)は、法律上、従業員は直ちに契約を解除することができるとされているので、会社に対し、損害賠償義務を負うことはありません。
このような拘束関係を生じさせることになる労働契約の期間は、労働者のために、原則として3年を超えてはならないとされています(労働基準法14条)。
第14条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
仮に、この上限を超える期間が定められた場合であっても、当該契約における契約期間は、法定の上限期間に改められます。
契約期間の定めのある雇用契約は、原則、契約期間の満了により終了し、その時点で、労働者は契約関係から離脱することが可能となります(黙示の更新のない場合)。従業員の方からは、会社に対し、面倒な退職の意思表示をする必要もありません。ただし、会社の方からは、「労働者が所定の契約期間を経過しても労働を継続し、使用者がこれに格別異議を述べないときは、契約が同一の条件をもって黙示の更新されたものと推定される」ことから(民法629条1項)、かかる黙示の更新を回避するため、契約期間の終了とともに契約を打ち切る旨の意思表示を従業員に対ししておいた方がよいでしょう。
労働者が有期労働契約を更新したいという希望を持っている場合、会社に対しては様々な規制がありますので、これについてはまた別の機会にお話しさせていただきます。