懲戒解雇は、懲戒処分の中で最も重い処分であり、通常は、解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、退職金の全部又は一部が支給されないとされています。
懲戒解雇の場合、解雇予告や予告手当の支払いは、絶対に必要ないのでしょうか。
解雇予告等については、以下のとおり、労働基準法20条、21条が規定しています。
(解雇の予告)
第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
②前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
③前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第21条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至った場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
労働基準法20条1項には、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と書かれており、懲戒解雇も解雇の一つであることから、原則的には、懲戒解雇の場合も、解雇予告又は予告手当の支払いが必要となります。
ただ、同条1項には続きがあり、「但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。」と書かれています。この限りでないというのは、解雇予告や予告手当の支払いが必要ではないということです。
懲戒解雇の場合、従業員の非違行為に対する制裁罰であることから、「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」にすべて該当するのではないかとも思えます。
この点、「労働者の責に帰すべき事由」の認定についての考え方、認定基準等については、通達(昭和23・11・11基発第1637号、昭和31・3・1基発第111号)に示されていて、「従業員の責に帰すべき事由」として除外認定申請があったときは、従業員の勤務年数、勤務状況、従業員の地位や職責を考慮し、次のような基準に照らし使用者、従業員の双方から直接事情等を聞いて認定するかどうかを判断するとされています。
① 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
② 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の従業員に悪影響を及ぼす場合
③ 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
④ 他の事業へ転職した場合
⑤ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑥ 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合
このように、「労働者の責めに帰すべき事由」というのは、労働者が予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむをえないと認められるほどに重大な服務規律違反または背信行為を意味すると解されています。
つまり、懲戒解雇が有効と考えられる場合であっても、場合によっては、労働基準法20条1項の「労働者の責めに帰すべき事由に基づく解雇」には該当しないと判断され、解雇予告又は予告手当の支払いが必要となるケースもありうるということです。
解雇予告又は予告手当の支払いをせずに従業員を即時解雇したい場合、事前に労働基準監督署長へ申請し、除外認定を受ける必要があります。具体的な手続きとしては、所轄の労働基準監督署長に対し、解雇予告除外認定申請書を提出します。その際、「労働者の責に帰すべき事由」を基礎付ける事実を証明するための資料等も必要になるので添付します。