労働契約法(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
従業員に対する懲戒解雇処分が権利濫用として無効とされるか否かは、労働契約法15条によると、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか否かという基準で判断されます。
「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情 」というのが、具体的にいかなる事情のことを指すのか分かりにくいので、もう少し具体的に説明します。
1.労働者の行為の性質・・懲戒事由となった労働者の行為そのものの内容
経歴詐称、職務懈怠、業務命令違背、業務妨害、職場規律違反
(横領、会社物品の窃盗、職場内での暴行・セクハラ・パワハラ、
顧客情報の漏洩)、私生活上の非行(犯罪行為等)、無許可兼職
等
2.労働者の行為の態様・・その行為がなされた状況や悪質さの程度など
3.その他の事情・・・ ① 企業秩序に対していかなる悪影響を及ぼしたか
② これまでの処分、非違行為歴
③ 被害者がいる場合は被害者の意見、示談の有無
④ 本人の反省の有無、程度
⑤ 犯罪行為をした場合は、報道の有無、程度、それにより会社の社
会的評価を低下させたか
⑥ 会社の業務への影響
⑦ 他の同種事案の処分内容(公平性の原理)
⑧ 非違行為の発生を防ぐための会社の事前の取り組み内容
⑨ 懲戒手続を進めるにあたり必要な手続きを遵守しているか
⑩ その他
事案によって、上記事情のうち実際に取り上げる事情は変わってきますが、最終的には、取り上げた各事情を総合的に考慮し、社会通念上相当であるか否かが判断されます。
懲戒解雇というのは、懲戒処分の中でもっとも重い処分であることから、より軽い処分が相当であると考えられる場合は、懲戒解雇処分自体、無効と判断されてしまいます。
懲戒処分は、通常、軽い方から、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがありますが、従業員に対し懲戒処分を行う場合は、より軽い処分内容では駄目なのか、慎重に検討した方がよいでしょう。言うまでもなく、懲戒処分の内容が重くなればなるほど、有効と認められる要件が厳しくなります。