高年齢者を雇用する企業は、2013年4月1日から施行された改正「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」第9条により、以下のとおり、65歳までの雇用確保処置が義務付けられています。
(高年齢者雇用確保措置)
第9条 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
定年制の状況をみると、定年制を廃止している企業は3.9%で、定年年齢を設定している企業が96.1 %。定年年齢は「60歳」が66.4%、「61~64歳」が2.7%、「65歳」が23.5%、「66~69歳」が1.1%、「70歳以上」が2.3%となっています。
(厚生労働省「令和5年高年齢者雇用状況等報告」)
個人的には、まだまだ60歳定年制の会社の割合が多いなぁという印象です。
上記3種類の高年齢者雇用確保措置のうち、いきなり定年の定めを廃止する企業の割合は少ないと思われるので、60歳定年制を採用している多くの企業では、定年を65歳に引き上げるのではなく、継続雇用制度を導入していることが分かります。
具体的な数値を挙げると、雇用確保措置を実施済みと報告した企業(236,815社)のうち、定年制を廃止した企業は3.9%、定年を引上げた企業は26.9%、継続雇用制度を導入した企業が69.2%となっています(厚生労働省 2023年高年齢者雇用状況等報告))。
この「継続雇用制度」というは、雇用している高年齢者を本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する、「再雇用制度」、 「勤務延長制度」などの制度をいいます。
1.再雇用制度
定年に到達した時点でいったん退職させ(退職金も支払い)、退職の翌日から(原則)、新たな条件で労働契約を締結し雇用する制度です。従前の雇用契約の内容はそのまま引き継がれず、雇用形態や労働条件が変更されるのが一般的です。
どのような条件に変更してもよいという訳ではなく、「パートタイム有期雇用労働法」第8条で、有期雇用社員について正社員と比較して不合理な待遇差をつけることが禁止されていますので、不合理な待遇差にならないよう配慮する必要があります。
再雇用後の契約形態としては、1年間の有期雇用契約を65歳まで更新することが多いですが、労働基準法上、満60歳以上の労働者との契約は5年を上限とする(通常は上限3年)とされているので、5年の有期雇用契約を締結することも可能です。
ただし、有期雇用契約が繰り返され通算で5年を超えた場合、労働者に無期契約締結の申込み権が発生するので、再雇用制度を採用する会社は要注意です(「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」に基づく特例有り)。
一般的に、定年後の有期雇用の従業員のことは、嘱託社員、シニア社員、再雇用社員などと呼び、正社員と区別することが多いです。
2.勤務延長制度
定年到達者を退職させることなく、引き続き雇用する制度です。雇用形態、役職、賃金、仕事内容なども大きく変わることなく、勤務期間だけ延長されるのが一般的です。
勤務延長制度が導入されても、60歳という定年の定めは残っているため、各労働者は定年年齢(60歳)に到達する前に、60歳で退職するかどうかの検討をすることになります。その結果、労働者本人が勤務延長を希望すれば、勤務延長の対象となり、そのまま65歳になるまで勤務を続けられることになります(定年延長の場合は、60歳の時点で退職するか否かの検討がされない)。
勤務延長制度の場合、定年退職日を過ぎても仕事内容や役職が変わらないため、対象者の労働契約の内容を新たに考える必要がありません。また、対象者にとっても、定年退職前と雇用形態、役職、賃金、仕事内容などが大きく変わることがないため、定年退職後もモチベーションを維持しやすいというメリットがあります。
ちなみに、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」によると、70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない(法的義務ではない)とされていますが、今のところ、70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は29.7%で、企業規模別にみると、中小企業が30.3%、大企業は22.8%で、中小企業の方が実施済みの割合が高くなっています。
労働人口減少に伴う人手不足の影響が中小企業の方がより大きいことが原因かなと思います。現状の人手不足の状況が続く限り、今後、この割合が減ることは考えにくく、近い将来、70歳まで働くことが当たり前の時代がやってくるかもしれません。ただし、AIの活用率が高くなるにつれて、労働力不足の影響が減り、退職年齢が高止まりしたままという状況が変化する可能性もあります。 効率化のためにAIを活用しつつ、体力が続く限りは働きたいという人たちに応えられるだけの需要をいかに作っていくか、今後の日本の課題です。