労災保険法の適用を受ける「労働者」というのは、労災保険制度が労働基準法の労災補償制度を基礎としていることから、労働基準法上の「労働者」と同義であるとされています。
労働基準法上の「労働者 」というのは、 「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています(労働基準法9条)。すなわち、
① 使用者の指揮命令下において労務を提供するものであること
② 労務に対する対償を支払われるものであること
の2つの要件を満たす場合に労働者と認められることになります。この要件を満たした労働者について労働災害が発生した際に、労災保険が適用され、被災者に対し、各保険給付が行われることになるのが原則です。
この「労働者」に該当するのかについては、会社と個人との間の契約の形式・名称如何にかかわらず、契約の内容を実質的に判断し、実態が労働契約であると評価できるかにより判断されますが、指揮監督の程度、対償の性質が事案により様々であり、判断が難しいケースが少なくありません。労働者性をめぐって争いになることが多いのは、
①一人親方の大工、②ホステス・ホスト、③芸能タレント、④各種配達員、⑤持ち込みドライバー、⑥NHK受信料集金人、⑦美容師、⑧研修医、⑨プロスポーツ選手
などについてです。
仮に、これらの職業従事者が労災法上の労働者ではないと判断された場合、労災保険の適用を受けることができず、被災したことにより被った損害は自力(各種保険会社によるカバーも含む)で回復せざるを得なくなります。
しかし、労働者でない者の中には、業務の実態や災害の発生状況などからみて、労働者に準じて保護することがふさわしい者がいます。また、国内の事業から海外に派遣された労働者について、現地の労働災害補償制度の適用しか受けられないとなると、補償制度の確立していない(十分でない)国に派遣された場合に十分な補償を受けることができない者もでてきます。 そこで、これらの者に対しても、労災保険制度本来の建前を損なわない範囲で、特別に任意加入することを認め、労災保険による保護が図られています。これが標題にも書かれている労災保険の「特別加入」制度です。
現行の法令上、労災保険に特別加入することができるのは、
①中小事業主、②一人親方等、③特定作業従事者、④海外派遣者
の4種の人たちですが、特別加入の対象の範囲は、随時、拡大されています。令和3年には、芸能関係作業従事者、アニメーション制作作業従事者、柔道整復師、創業支援等措置に基づき事業を行う者、原付・自転車を使用して貨物運送事業を行う者、ITフリーランスが、令和4年には、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、歯科技工士が、令和6年には、一部のフリーランスの方が対象に加わっています。
中小事業主等の特別加入
特別加入できる中小事業主等とは、次の2つに該当する場合をいいます。
① 下の表に定める数の労働者を常時使用する事業主(事業主が法人その他の団体であるとき
は、その代表者)
② 労働者以外で、上記1の事業主の事業に従事している人(事業主の家族従事者や、中小事
業主が法人その他の団体である場合の代表者以外の役員など)
詳細については、厚生労働省が作成している特別加入制度のしおり(中小事業主用)をご覧ください。
一人親方等の特別加入
特別加入することができる一人親方、その他の自営業者は、次の1~12の事業を、常態として労働者を使用しないで行っている方になります。
労働者を使用する場合であっても、労働者を使用する日の合計が1年間に100日に満たない場合は、特別加入することができます。
① 自動車を使用して行う旅客若しくは貨物の運送の事業又は原動機付自転車若しくは自転車
を使用して行う貨物の運送の事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
② 土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊若しくは、
解体又はその準備の事業(大工、左官、とび職人など)
③ 漁船による水産動植物の採捕の事業(⑦に該当する事業を除く)
④ 林業の事業
⑤ 医薬品の配置販売
⑥ 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
⑦ 船員法第1条に規定する船員が行う事業
⑧ 柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業
⑨ 創業支援等措置に基づく事業
⑩ あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律に基づくあん摩マッサージ指
圧師、はり師又はきゅう師が行う事業
⑪ 歯科技工士法第2条に規定する歯科技工士が行う事業
⑫ 一部のフリーランス事業
詳細については、厚生労働省が作成している特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)をご覧ください。
特定作業従事者の特別加入
特定作業従事者とは、次のいずれかに該当する方になりますが、それぞれ一定の要件があります。詳細については、厚生労働省が作成している特別加入制度のしおり(特定作業従事者用)をご覧ください。
特定農作業従事者
指定農業機械作業従事者
国又は地方公共団体が実施する訓練従事者(職場適応訓練従事者、事業主団体等委託訓練従事者)
家内労働者及びその補助者
労働組合等の常勤役員
介護作業従事者及び家事支援従事者
芸能関係作業従事者
アニメーション制作作業従事者
情報処理システムに係る作業従事者
海外派遣者の特別加入
海外派遣者として特別加入することができるのは、次のいずれかに該当する場合です。
・日本国内で労災保険の保険関係が成立している事業の事業主から、海外支店、工場、現地法
人、海外の提携先企業などに労働者として派遣される人
・日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業(一定の要件あり)に事業主等(労働者
ではない立場)として派遣される人
・独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除
く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人
単に留学を目的として海外へ赴く者、現地採用された者は、特別加入の対象とはなりません。詳細については、厚生労働省が作成している特別加入制度のしおり(海外派遣者用) をご覧ください。