これまで、配転(配置転換、転勤)、出向についてお話してきました。両者は、配転の場合、同一企業内の人事異動であって使用者も変わらないのに対し、出向は、異なる企業間の人事異動で使用者が複数になるという点で異なります。
今回は、この配転・出向先が海外にある場合について考えてみましょう。
日本の使用者に日本で雇用されて勤務していた労働者が、配転命令により、海外に居住して、当該使用者の外国における事業所ないし営業所に勤務することを、海外駐在といいます。
一方、日本の使用者に日本で雇用されて勤務していた労働者が、出向命令により、当該使用者の企業グループに属する外国の法人若しくはそれ以外の外国の法人等に出向し、その法人に雇用されて勤務することを、海外出向といいます。
どちらも、海外勤務に伴う労働条件や生活環境の変化が大きいことから、原則、労働者本人の同意が必要と解されています。
海外への配転命令、出向命令の有効性については、日本国内の配転・出向と同様の枠組みで判断されることになります。
すなわち、配転命令については、労働契約法3条5項の要件に該当するか、出向命令については、同法14条に該当するかを検討することになります。
労働契約法3条(労働契約の原則)
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
労働契約法14条(出向)
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
では、海外赴任者の労働条件は、どのような内容に変更されるのでしょうか。
使用者が変わらない配転命令による海外駐在の場合は、派遣する会社が海外駐在員に適用される海外赴任時の処遇について定めた規程を策定している場合があるので、その場合は、かかる①「海外赴任規定」と②「赴任者に通知される赴任時の労働条件を明示した通知書」の内容によって、労働条件が変更されることになります。
一方、使用者が変わる(増える)海外出向の場合は、通常、日本の出向元企業と海外の出向先企業との間で、海外赴任者の労働条件を国内と現地どちらに従わせるか、赴任支度金や旅費等の費用負担をどちらの法人が負担するか等が記載された出向契約書が作成されていることが多いので、かかる①「出向契約書」、②上述の「海外赴任規定」、③「赴任者に通知される赴任時の労働条件を明示した通知書 」などの内容によって、労働条件が変更されることになります。
海外駐在、海外出向のいずれの場合も、現地国の絶対的強行法規の適用を受けることになるので(当事者が選択する準拠法の問題とは別)、赴任者の赴任先での労働条件を設定する際は、現地の強行法規に反していないかに注意して、海外赴任規定や労働条件通知書等を作成する必要があります。