今回は、労働条件の変更が問題となりえる「出向」についてお話しします。
出向とは、ある企業の従業員が雇用先の企業(出向元)における従業員としての地位を保持したまま、他の企業に一定期間、業務を行うために派遣されることを指します。出向中の労働者は、出向元企業と出向先の企業の双方と労働契約関係にある点で、派遣元とのみ契約関係のある派遣とも異なりますし、雇用先の労働契約関係がいったん終了する転籍とも異なります。
出向は、労務提供の相手方企業自体が変更になるので、たとえ密接な関連会社との間に日常的に行われる出向であっても、就業規則・労働協約上の根拠規定や採用の際の同意などの明示の根拠がない限り、出向命令権が労働契約の内容になっているということは難しく、出向命令が認められるためには、出向命令権の根拠があることが必要とされています。
仮に根拠があったとしても、出向命令が、組合活動の妨害を目的とするものであったり、思想信条による差別に当たる場合、性別による差別にあたる場合、婚姻、妊娠、出産、産前産後の休業を請求・取得したこと等を理由とするもの、公益通報を行ったことを理由とするものである場合は、無効と評価されます。
出向労働者は、出向先の企業の指揮命令の下で労務提供を行うことになるので、通常、出向先の企業の勤務管理や服務規律に服することになります。したがって、労働基準法上の使用者として義務を負うのは、労務の提供を前提とする権利義務については出向先が、それ以外の部分については出向元が、それぞれ負うことになるのが一般的です。
では、就業規則については、出向元、出向先、どちらの規則が適用となるのでしょうか。
これについても、労務提供に関する部分は出向先の就業規則が適用され、労務提供とは直接関係しない部分、例えば、労働契約法上の地位の得喪に関する場面では、出向元の就業規則が適用されるのが原則と考えられています。ただし、出向元と出向先との間で締結される出向協定の中で、事前に適用関係は定められていることが多いです。
給与、諸手当、賞与の支払いについては、①出向先の企業が行い、出向元における勤務の場合との差額がある場合は差額分を出向元が補償するというケースと、②出向元が支払い続け、出向先がそのうちの自己の分担額を出向元に支払うというケースが多いです。
出向については、労働契約法が、以下のとおり、権利の濫用にあたる場合を制約しています。
労働契約法14条(出向)
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
具体的には、出向命令の業務上の必要性と出向者の労働条件上及び生活上の不利益とが比較衡量されることになります。大幅に労働条件が下がったり、復帰が予定されていない場合などは、整理解雇の回避や管理職ポストの不足など、それを首肯せしめる企業経営上の事情が認められない限り、権利濫用になりうるとされています(菅野和夫・山川隆一「労働法」参照)。