労働契約は契約の一種であるので、契約当事者である労使双方の合意により成立し、双方の合意がない限り、変更されないのが原則です。
労働契約法8条(労働契約の内容の変更)
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
合意による労働契約の変更にあたっては、①労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいていること、②就業の実態に応じて、均衡を考慮すること、③仕事と生活の調和にも配慮することという原則が、労働契約法に規定されています。かかる原則は、理念を宣言したにすぎず、具体的な法律効果を伴う規定ではありませんが、具体的な法律問題の解決や労使交渉において援用されうる規定とされています。
一般的に、会社においては、一人の使用者との間で多数の労働者が労働契約を締結していて、使用者は、事業の効率的遂行のために労働の組織を編成し、そのなかに個々の労働者を位置づけそれぞれの役割を定めています。そうした中、個々の労働者の労働条件を設定・変更するにあたり、協働する労働者間の公平性・均衡性への配慮が必要となります。
一人の労働者とのみ、他の労働者との均衡性を欠いた労働条件に変更することは原則認められていないので、画一的・統一的に労働条件を変更しようとする場合、原則として、その労働条件の適用を受けるすべての労働者の個別合意を得る必要があります。しかし、それは非常に困難なことであり、事実上不可能でしょう。かといって、合意が得られた労働者との間のみ労働条件を変更するとすると、労働者間の公平性・均衡性を損なうことになりかねません。
そこで、一定の場合には、労働者の個別合意によらなくても労働条件を変更できるという例外が認められています。
労働契約法10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
この条文は、就業規則変更の合理性判断について積み上げられてきた判例法理が立法化されたもので、変更の合理性と周知性を要件としています。
就業規則が従業員に有利に変更される場合は、変更の合理性が認められないということはほとんどないと思いますが、従業員に不利に変更される場合、変更の合理性について会社側に立証責任があり、変更の必要性と労働者の受ける不利益の相関関係を中心に判断され、合理性の立証は簡単ではありません。
その他、労働協約(労働組合と使用者またはその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名又は記名押印したもの)よる労働条件変更も、個別合意の例外として認められています。
この場合、労働組合に所属する労働者(場合によっては所属していない労働者も含む)の労働条件は、個別労働条件と比較した場合の有利不利を問わず、原則、労働協約で定められた内容によって規律される(労働契約の内容となる)ことになります。
労働組合法14条(労働協約の効力の発生)
労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる。
労働組合法16条(基準の効力)
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。
労働組合法17条(一般的拘束力)
一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。