前述のように、労働者のうつ病などの精神障害については、労働基準法施行規則別表第1の2において、「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」として、業務上の疾病の一つとして明記されています。
労災の手続上、これに該当するかについては、厚生労働省が公表している、「心理的負荷による精神障害の認定基準」という通達(法令等の解釈、運用の指針等に関し、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発する通知)により判断されます。
この認定基準においては、業務に起因する精神障害が生じるか否かについて、環境由来の心理的負荷(ストレス)と個体側の反応性・脆弱性との関係で決まり、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起きるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても精神障害が生じるという「ストレスー脆弱性理論」に依拠しているとされています。
この基準によると、精神障害の業務起因性の認定要件として、
① 対象疾病を発病していること。
② 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷
が認められること。
③ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは
認められないこと。
が必要とされています。
このうち、①の対象疾病は、疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)の第10回の改訂版(以下「ICD-10」といいます。)第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害(器質性のもの及び有害物質に起因するものは除く)とされていて、F2からF4に分類される精神障害とされています。
ICDというのは、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類のことで、最新の分類は、1990年の第43回世界保健総会において採択されたもので、ICD-10(1990年版)と呼ばれています。
ちなみに、F2からF4に分類される精神障害としては以下のものが挙げられています。
F2 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害
F20 統合失調症
F21 統合失調症型障害
F22 持続性妄想性障害
F23 急性一過性精神病性障害
F24 感応性妄想性障害
F25 統合失調感情障害
F28 その他の非器質性精神病性障害
F29 詳細不明の非器質性精神病
F3 気分[感情]障害
F30 躁病エピソード
F31 双極性感情障害<躁うつ病>
F32 うつ病エピソード
F33 反復性うつ病性障害
F34 持続性気分[感情]障害
F38 その他の気分[感情]障害
F39 詳細不明の気分[感情]障害
F4 神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害
F40 恐怖症性不安障害
F41 その他の不安障害
F42 強迫性障害<強迫神経症>
F43 重度ストレスへの反応及び適応障害
F44 解離性[転換性]障害
F45 身体表現性障害
F48 その他の神経症性障害
上記②の要件「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」について、業務による心理的負荷の強度の評価に際しては、心理的負荷による精神障害の認定基準 別表1が指標として用いられていて、それにより心理的負荷が「強」を評価される場合は、この要件②を満たすとされています。
具体的には、発病前おおむね6か月の間に、別表1の「特別な出来事」に該当する業務による出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」と判断し、特別な出来事以外の出来事については、当該出来事を別表1の「具体的出来事」のいずれに該当するかを判断し、合致しない場合にも近い「具体的出来事」に当てはめ、総合評価を行うことになります。
非常に細かな評価になるのでここでは詳細は省きますが、この精神障害の労災認定の要件該当性について、悩んでおられる方がいらっしゃいましたら、いつでもご相談ください。