試用期間を設けた従業員に対する解雇というと、一般的には、試用期間終了時点での本採用拒否を想像されるかと思いますが、中には、試用期間終了前の解雇というケースもあります。
試用期間というのは、会社の立場からすると、企業が採用した労働者を本採用する前に、その能力や適性を評価するために設ける期間なので、通常は、試用期間中の全期間を見た上で適性を判断することがほとんどです。
ただ、場合によっては、全期間を見るまでもなく適性がないことが判明するという場合もあり、その時は、試用期間満了前に解雇することも行われます。試用期間終了時点での解雇と比べると、試用期間満了前の解雇というのは例外的なケースであり、認められる要件はより厳しくなります。
解雇理由次第では、試用期間終了まで待てない特別な理由が必要となります。
具体的なケースごとに考えてみましょう。試用期間を設けた従業員を本採用することなく解雇する場合、主に、以下のような理由が考えられます。
1.重大な経歴・能力詐称
例えば、試用期間中に、職務遂行能力に対する評価に影響を与えるような経歴・能力についての詐称が判明したような場合、試用期間中の解雇は認められる可能性はあります。このような詐称は、実際の事実を知っていれば採用していなかったといえるような場合に、試用期間中の解雇が認められやすいといえます。
職務遂行能力に対する評価に影響を与えるような詐称かどうかは、詐称の内容、従業員の職種などを考慮して具体的に判断され、学歴、職歴、犯罪歴、資格、職務遂行能力についての詐称がほとんどです。
2.協調性等の欠如
試用期間中に、対象者の協調性の欠如が明らかになったような場合、試用期間中の解雇が認められる場合があります。
一般的に、日本の会社においては、職場での協調性は円滑な業務運営に欠かせない要素であり、仕事の効率や人間関係の向上にも大きく影響を与える非常に重要な資質だと考えられています。とはいえ、単なる協調性の欠如だけで解雇が認められることはあまり多くはありません。協調性がないことを理由に試用期間中の解雇が認められるのは、その程度が大きく、周囲にも重大な悪影響(周囲の者が退職していく等)を及ぼし、改善の機会を与えたにもかかわらず問題が改善されなかった、もはや改善の余地がないと認められるようなケースに限られるかもしれません。
会社の立場からすると、能力不足の社員以上に、協調性のない社員の対応には苦慮されると思います。協調性のない社員は、どの部署に異動させても同様のトラブルを生じさせてしまうことが予想されるため、適材適所の配置転換では解決できず、地道な注意・指導により改善させる他ありません。しかし、相応の社会経験を経てきた大人の協調性を改善させるということは容易いことではなく、協調性の欠ける社員への対応については、できるだけ早く辞めて欲しいがどうすればよいかと悩まれている会社の方が非常に多い印象を受けます。
以下、試用期間中の解雇のケースではありませんが、参考になる裁判例(東京地判平26.12.9)を載せておきます。
被告は、自分が職種限定社員であるという主張に固執していた原告をその希望どおり与信審査部に異動させた上で、本件合意に沿って、他の従業員らとのコミュニケーション及び行状について、何度も原告との面談を実施し、注意を行い、懲戒処分たる譴責処分も行うなど、改善の機会を何度も与えたものの、原告の言動が基本的に変わることがなかったため、原告を解雇するに至ったものであるから、以上の経緯を踏まえると、本件解雇は「社会通念上相当」と認められる。
原告は、21年間にわたる銀行勤務の後に被告との間で本件雇用契約を締結し、月額50万円近い賃金の支払を受けて稼働していた(前記前提事実(2)(9))のであり、相応の経験を有する社会人として、自身で行動を規律すべき立場にあったものといえるところ、他者とのコミュニケーションに意を用い、その名誉や感情を徒に害するような言動を慎むことは、かかる社会人経験を有する者としては当然のことであり、改めて注意されなければ分からないような事柄ではない。とすれば、前記認定に係る言動について、被告が原告に具体的かつ明示的な注意や指導をしていなかったとしても、そのことを重視するのは相当ではない。しかも、被告が実施していた面談等は、何が問題であるのか通常の理解力があれば容易に認識し得る方法で提示し、注意や指導をしていたと評価することができ、原告としても、改善の契機はあったと認められるのであって、被告は原告に行動を改める契機を何度も与えてきたということができる。むしろ、原告において前記のような主張をしていること自体が、原告の処遇の困難性を示し、本件解雇の相当性を裏付けるものというべきである。原告の主張は理由がない。
3.職務遂行能力の不足
分かりやすく言えば、能力不足のことです。能力不足を理由とする試用期間中の解雇というのは、認められる余地が非常に狭いことに注意が必要です。
なぜなら、対象者が能力不足か否かについては、原則として、試用期間中の全期間を見た上で判断されるべきであり、試用期間満了前の解雇が認められるのは、今度指導を継続しても会社が求めるレベルに到達しないことが明らかである(向上の余地がない)ような例外的な場合に限られると考えておいた方がよいでしょう。
特に、未経験者や新卒採用者を採用している場合、試用期間中という雇用されてからそれほど日数が経過していない時期に仕事ができない(能力が不足する)ことは当然のことであり、その時期に能力不足を理由に解雇するというのは、全く改善傾向がない、何度言っても同じ失敗ばかり繰り返す、ミスを繰り返さないよう努力した跡が全く見受けられないようなよほどのケースに限られると思います。
他方、同種職種の経験のある従業員が好待遇で中途採用されたような場合は、未経験者や新卒採用者と比較すると、能力不足を理由とした解雇は認められやすいとされています(下記参考裁判例:東京地判平成30.6.20)。ただし、経験者の中途採用でも個別の事情はそれぞれ異なるので、一律に、試用期間中の解雇が認められやすいという訳ではない点にご注意ください。
原告は高いレベルの実務能力を有することを前提に、当初から経営の最高責任者という要職に就けるために、相当な高待遇をもって採用された者であることからすると、そのような者を試用期間中の留保解約権の行使として解雇するに当たり、懇切丁寧な改善指導を行うことが必須であるということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない。
また、原告は、本件雇用契約においては6か月間の試用期間が設定されているにもかかわらず、本件解雇は4か月しか経過していない時点でなされたものであることから、解雇権の濫用に当たることは明らかであると主張する。しかしながら、末端の労働者であるならばともかく、経営の中枢的立場にある者の能力不足が企業全体に及ぼす影響の甚大さを考慮するならば、そのような者に対しては試用期間の満了を待たずに解雇せざるを得ない場合があることも否定できないところ、既にみたとおり、原告については、前記(1)認定の一連の経緯及び前記(ア)ないし(エ)の説示に照らすと、9月末時点で被告のGMとしての不適格が明らかになったというべきであるから、その時点で解雇に踏み切ったことは不当とはいえないというべきである。