懲戒解雇という言葉はよくニュース等で耳にされると思います。
「何か悪いことをした社員に対し、会社が制裁として課す処分の中で最も重いもののことですよね?」
そのとおりで
国家が罪を犯した人に科す罰の中で最も重いものが死刑。
会社が制裁として課す処分の中で最も重いものが懲戒解雇処分です。
国家がなぜ罪を犯した人に対し刑罰を科すことができるのか、議論されるのと同じく、会社がなぜ制裁として懲戒処分を従業員に課すことができるのか、考えてみると、なかなか難しい問題です。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立します(労働契約法6条)。
この合意内容だけから、直接、労働者の企業秩序遵守義務、かかる義務に違反したことに対する使用者の懲戒権の存在を導き出すことはできません。
この点、最高裁判所は以下のように判示しています。
「企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。」
労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負い、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができるとされているのです。
他方で、判例は、使用者は、規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、規則の定めるところに従い懲戒処分をなしうると述べ、懲戒権を、企業が本来的に有する企業秩序定立・維持権の一環ではあるものの、規則に明定して初めて行使できるものとも判示しています。
つまり、懲戒処分は、企業秩序違反者に対し使用者が労働契約上行いうる通常の手段(普通解雇、配転、損害賠償請求など)とは別個の特別の制裁罰であって、契約関係における特別の根拠を必要とすると考えられているのです。(菅野和夫・山川隆一「労働法」参照)。