職場におけるパワーハラスメントの定義
「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」
今回は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」という要件について、お話させていただきます。
おそらく、3つの要件の中で一番当てはまるのかについて悩まれるのが、この要件だと思います。
厚生労働省の指針によると、この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当であるとされています。
その上で、パワーハラスメントを、
① 身体的な攻撃(暴行・傷害)
② 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
6つの類型に整理し、類型ごとに、該当すると考えられる例と該当しないと考えられる例が挙げられています。
このうち、①~⑤の類型については、比較的イメージしやすいですが、⑥の類型については、具体的な例を見ないとよく分からないのではないでしょうか。
具体的な例としては、
・ 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
・ 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の 了解を得ずに他の労働者に暴露すること(アウティング)。
については、パワーハラスメントに該当するとされ、
・ 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
・ 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。
については、パワーハラスメントに該当しないとされています。
これらの例は比較的分かりやすいものですが、私的なことに過度に立ち入っているか否かについては、非常に判断が難しい問題だと思います。
仕事に関する話題以外での会話においては、相手のことに立ち入ることはある意味必然であり、それが過度かどうかの判断をその都度的確に行いながら会話を続けることなど、よほどコミュニケーション能力が高い人以外できません。
過度かどうかというのは、最終的には裁判所の判断になりますが、常識的にみて大多数の人が過度(パワーハラスメント)だと感じるか、平均的な労働者の感じ方を基準に判断するということになろうかと思います。
なお、パワーハラスメントに該当する例として挙げられている 「労働者の性的指向・性自認について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」については、いわゆるセクシャルハラスメントの定義にも該当すると思われ、パワーハラスメントとセクシャルハラスメントの境界は曖昧です。