みなさんは、労働基準法に、給料の非常時払いという条項があることをご存じでしょうか。意外に知られていないように思うので、今回はこの給料の非常時払いについて説明させていただきます。
はじめに、労働基準法の条文を見てみましょう。
(非常時払)
第25条
「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。」
これを読むと、まだ働いていない将来の給与期間の給与についても、要件さえ満たせば前払いを請求できるのかと勘違いしてしまうかもしれませんが、世の中、そんなに甘くはありません。
これを読むと、まだ働いていない将来の給与期間の給与についても、要件さえ満たせば前払いを請求できるのかと勘違いしてしまうかもしれませんが、世の中、そんなに甘くはありません。
あくまでも、給与支払いの原則は、ノーワークノーペイ
労働者が労働していない場合、企業には給与支払い義務が発生しないという大原則。
根拠は、民法第624条第1項とされています。
「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」
この624条には2項もあり、
「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」
と規定されています。
また、労働基準法24条2項には、
「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」
とも規定されています。
労働基準法25条の「給料の非常時払」は、この民法624条2項、労働基準法24条2項の例外にあたるとも言えます。
では、どういった場合に、この給料の非常時払いの請求ができるのでしょうか。
労働基準法25条、労働基準法施行規則9条によると、以下のような場合が想定されています。
労働者自身または労働者の収入によって生計を維持する者が、
① 出産した場合
② 疾病にかかった場合
③ 災害を受けた場合
④ 結婚した場合
⑤ 死亡した場合
⑥ やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合
事業主側からすると、かかる法律に基づいて、従業員から、「今度結婚することになったので、給料を前払いしてください。」と言われたとしたら、どのような印象を持つでしょうか。
「お祝い金くれとかなら分からなくもないが、給料の前払いってそもそもうちにはそんな前例ないし、どうして結婚するからって給料を前払いしなくちゃいけないのか、理解に苦しむ。」という事業主の方の方が多いように思います。
しかし、上記のような法律がある以上、労働基準法25条の要件に該当する請求であれば、事業主は支払い義務を免れません。
仮に、この義務に違反して非常時払いを拒否した場合、使用者は30万円以下の罰金に処せられますので、注意が必要です。